このブログは、旧・はてなダイアリー「檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」(http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/)のデータを移行・保存したものであり、今後(2019年1月以降)更新の予定はありません。

今後の更新は、新しいブログ http://m-hiyama-memo.hatenablog.com/ で行います。

熱帯はやっぱり熱い! (tropical半環おもしれー)

N∪{+∞}に、minを加法、+を乗法として演算を入れたISRをトロピカル(tropical)半環と呼ぶ(Exotic Semirings, http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/20060622/1150962733を参照)。R∪{+∞}のほうは正確にはoptimization代数と呼ぶらしいが、普通はRであってもトロピカル半環、トロピカル代数とか呼ぶ。Rの正の部分、非負の部分だけを考えてもいい。

DFDでは、グラフ辺に半環の値を付けるが、これにトロピカル半環を使うと面白い。もっと正確にいうと、トロピカル半環の加法(つまりmin)だけを考えた半加群を考える。この半加群を頂点にくっつける。そして、半加群に値を取るセクション(ねじれがないから関数と考えてよい)を状態関数とする。辺には、半加群の半加群自己準同型の半環の値を付置する。

これは、1つの半加群だけを対象とする圏を考えて、その圏を係数圏とするカテグラフを考えていることになる。カテグラフとしては最も簡単なもので、容易にリグラフに還元できる。が、あえて還元しないのがミソ。

加群の半加群自己準同型の半環を、以下、気分を出すため作用素半環と呼ぶ。もとのトロピカル半環は、作用素半環内にスカラー乗法作用として標準的に埋め込める。つまり、作用素半環は、トロピカル半環の拡張とみなせる。

注目すべきは、作用素半環に埋め込んだトロピカル半環には概逆元(almost inverse)が存在すること。任意のn∈T(Tはトロピカル半環)に対して、n'・n = 1, n・n' ⊆ 1 となるn'が作用素として見つかる(⊆はトロピカル半環としての順序)。具体的にn'は、nによる制限引き算である。

概逆元の存在は、DFDにおける逆問題(って呼んでいいのか?)にとって決定的で、力学系の生成作用素(たぶんハミルトン作用素に対応する行列)の概反行列(almost opposite matrix; AOM)を作れる。概反行列のS行列を作れば、それが概逆伝搬関数(順方向の伝搬関数の概逆)を与え、逆問題(概逆問題と呼ぶべきか)の解を与える。

トロピカル半環を係数としたDFDは、移動コスト(交通費、運送料金)の最小化問題や計画(制御)問題そのものなので、非常に具体的。計算は数値的・算術的なので(小規模なら)手でも容易。

面白いのは、トロピカル半環はクリーネ半環(クリーネ代数)としては自明(つまらない!)のに、作用素を係数とする行列代数におけるクリーネスター=S行列=指数が意味もあるし、面白い存在物になっている。

とにかく、トロピカルDFDは、ものすごく適切な具体例だという気がする。計算が簡単にキッチリできる点が気に入った!