オーバーバー記法はトンデモナイ
[過去に書いたものだが] 頭痛がする統計用語・記法のシリーズ、延々と。
大文字小文字の違いなので、この記法はよく使われる。ところが、一見類似性があるが、これはトンデモナイ記法で、まったくの別物。
小文字の は、 というタプルを考えれば、タプル変数xに対する関数を、一種の演算子記号(オーバーバー)で表したものと解釈できる。
の解釈は面倒くさくて難しい。しかも流儀が少なくとも3つはある。
- 大文字Xはスカラー値確率変数とする。 は、確率変数Xから別な確率変数を作る複雑な仕掛け(統計変換)を表すとする。
- 大文字Xはベクトル値確率変数とする。 は、ベクトル確率変数Xを単に平均値関数に代入(実際は関数結合)したことを表す。
- 大文字Xは、スカラー値確率変数とベクトル値確率変数のどちらも表す。記号のオーバーロードであり、文脈ごとに解釈を変える。
さらには、確率変数XとR上の単なる変数xを混同するという悪しき習慣も併用するのだから、もう気違い沙汰だ。まっとうな理解は極めて困難。天下りの暗記か思考停止か、あるいは挫折。
大文字Xはスカラー値確率変数
確率変数Xに対して、可測空間の圏でテンソルベキを考えて、それを とする。 と定義する。X(n):Ωn→Rn というベクトル確率変数ができる。このX(n)はスカラー確率変数Xから作ったもの。
i = 1, ..., n に対して、Xi = X(n);πi とする。ここで、πiは、Rn→R という射影のi番目のもの。Xi を使うと、
- X(n) = (X1, ..., Xn)
という書き方ができる。X(n)はXから作られたものだが、XとX(n)は別物!
下付きの(n)は、X|→X(n) という対応に対する演算子記号と考えることができる。mean(x) = mean((x1, ..., xn)) = mean(x1, ..., xn) として、
となる。
ここでは、スカラー確率変数はX、それから作られたベクトル確率変数はX(n)、射影を取ったスカラー確率変数はXiとして区別してる。オーバーバーには、mean(X(n)) という解釈を与える。
大文字Xはベクトル値確率変数
Xi達は、n個のスカラー確率変数として、ベクトル確率変数Xを、X = (X1, ..., Xn) として定義する。この場合は、オーバーバーは、meanの演算子記号だと思ってよい。
Xはベクトル確率変数なので、スカラー確率変数としてはX1を使う。
オーバーロード
スカラー確率変数としてのXと、ベクトル確率変数としてのXをオーバーロードする。最も分かりにくいが最も使われているかも知れない。さらに、確率変数XとR上の単なる変数xを混同するという悪しき習慣も併用されると、ほとんどワケワカメ。伝統とは言え酷すぎる。