このブログは、旧・はてなダイアリー「檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」(http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/)のデータを移行・保存したものであり、今後(2019年1月以降)更新の予定はありません。

今後の更新は、新しいブログ http://m-hiyama-memo.hatenablog.com/ で行います。

タオのトレース可換環の表現論 (3) 半内積とノルム

内積の公理から「(x|x) = 0 ⇒ x = 0」だけを外した二次形式を何と呼ぶか? 見当たらない。「非退化」を仮定しないことなので「退化」という形容詞を付けてもいいが、「退化している」ではなくて「退化を許す」だから、ちょっと違和感がある。半ノルム(semi-morm)を誘導する内積だから内積と呼ぶことにする。

トレース可換環(tracial commutative algebra)のフロベニウス内積(Frobenius inner product (or Hilbert-Schmidt inner product))は、ほんとの内積になるとは限らず内積でしかない。重要なことは、半内積でもコーシー・シュワルツ不等式が成立して、その他の不等式も成立すること。

トレース可換環Aから掛け算を忘れてベクトル空間とみなして、フロベニウス内積を入れると、それは半内積空間となる。長さ0のベクトルの全体は部分ベクトル空間となるので、これをヌル部分空間と呼ぶことにする。ヌル部分空間Nは、集合としてのAの部分集合となる。Nが可換環イデアルかどうかは不明である。掛け算に関する不等式 |xy| ≦ |x||y| が示せない。ここらの事情が分からない。

スペクトル半径をノルムとすると、Aは半ノルム可換環になる。スペクトル半径が0である要素からなる部分集合Nρは定義可能で、N⊆Nρ は明らか。だが、Nρ⊆N かどうかが分からない。いずれにしても、Nρイデアルになるので、A/Nδ は作れてノルム可換環になる。ただし、完備かどうかは分からない。完備化は可能なので、完備化を経てバナッハ可換環に出来るだろう。

この時点で直接ゲルファント表現を作ると、スペクトル半径は最大値ノルム(一様ノルム)として実現される。このことは、スペクトル半径が固有値の最大絶対値であることと符合する。

ただし、ゲルファント表現では、被作用素の空間(表現空間)が出てこないので、Aの要素が作用素となる事情が見えない。タオの方式だと、表現ヒルベルト空間Hとその上の有界自己随伴作用素としてAが実現される。Hの有界作用素の全体BL(H)は作用素ノルムで非可換ノルム環となるが、AはBL(H)の可換部分ノルム環に等長埋め込みされる。これは、BL(H)の性質を調べておかないと示せない。

h∈A に対して、Th(f) = hf で定義される写像 T:A→L(H) に関して、Th有界であることと、その作用素ノルムがどう計算されるかを調べる必要がある。