このブログは、旧・はてなダイアリー「檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」(http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/)のデータを移行・保存したものであり、今後(2019年1月以降)更新の予定はありません。

今後の更新は、新しいブログ http://m-hiyama-memo.hatenablog.com/ で行います。

module, bimodule, algebra

プロ関手(profunctor, distributor)をbimoduleだかmoduleだかと呼ぶ習慣が一部にあるが、これはいくらなんでもヒドイ。論外としておこう。

古典的には、環Rと環Sがあって、アーベル群Aが、左R加群かつ右S加群のとき、R-S両側加群と呼ぶはずだが、両側加群を双加群とも呼ぶのかな? http://en.wikipedia.org/wiki/Bimodule を読んでみると:both a left and a right module, such that the left and right multiplications are compatible. -- やっぱり両側加群のことだね。というわけで、bimoduleの標準的な用法は両側加群ということでいいとしよう。

加群または双加群(やっぱり両側加群がシックリ来るな、僕には)の係数環を多元環まで一般化すると、多元環上の双加群概念ができる。ここで多元環と書いたが、普通はalgebraと呼ぶ。この多元環というのは、圏Abにおけるモノイド対象である。このことから、圏のモノイド対象=内部モノイドを(その圏の)代数と呼ぶことがある。

Cのモノイドを代数と呼ぶことがあるのだから、CのモノイドAとCの対象X、それと左(または右)スカラー乗法 A□X→X をCの加群と言ってよいだろう。このとき、CのモノイドAは代数といったほうが自然。つまり、モノイド圏Cの「代数A上の加群X」という言い方になる。同様に、「代数A, B上の双加群X」とう言い方もできる。

Cが多様体の圏なんかだと、加群という言い方はさすがに変なので、「モノイドAが作用する空間X」と言ったりする。モノイドより群が多いが。スカラー乗法の代わりに作用という。双加群に相当する概念は、2つのモノイド(や群)が左右から作用する空間。

さて、こっからがちょっと困った話。モナドFがあると、F-代数という概念がある。単なる関手Fに対するF-代数も定義できるが、モナドFの代数はモナド演算と協調する公理を備えている。モナドFの代数の全体はAlg(F)と書かれて、Fのアイレンベルク/ムーア圏となる。

問題は、圏CがAbであって、モナドFが圏Cのモノイド(つまり、代数)Aによるスタンピングモナドのときだ。モナドの代数は、F(X)→X という形、つまり、A×X→X で公理を満たす。これは、代数Aの加群のこと。

混乱しそうだから、アイレンベルク/ムーア構成の代数を、EM代数と呼ぶことにすると。圏Cのモナド=代数AによるスタンピングモナドのEM代数が、「代数Aの加群」なのだ。さらに、モナドがEnd(C)のモノイドだから、End(C)内で、モナド=モノイド=代数の加群を考えることが出来る。

  1. 代数はモノイドである(同義語として使う)
  2. 代数=モノイドのスタンピングモナドのEM代数を考えられる
  3. スタンピングモナドのEM代数は、代数(多元環)の加群である
  4. スタンピングモナド自体がモノイドである
  5. モナド(代数)の加群を考えることもある

もうまったく無茶苦茶なんだが、歴史的経緯からはしょうがない点もある。最後に、事実だけ述べると:

  1. 圏Abのモノイドは、歴史的に代数と呼んでいた。
  2. モナドの代数(EM代数)は、作用を持つ集合/空間概念である。
  3. モナドの代数(EM代数)は関手の代数と同じ用法だが、関手の代数を代数と呼ぶのは一理ある。
  4. 圏Ab上のスタンピングモナドの代数は加群となる。作用はスカラー乗法。
  5. モナドもモノイドだから、モノイド=代数とみなして加群が考えられる。