このブログは、旧・はてなダイアリー「檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」(http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/)のデータを移行・保存したものであり、今後(2019年1月以降)更新の予定はありません。

今後の更新は、新しいブログ http://m-hiyama-memo.hatenablog.com/ で行います。

ドウセンの論文、これはサイコー:命題論理とタングル

コスタ・ドウセンとゾラン・ペトリック(Kosta Dosven and Zoran petric')の"Coherence and Confluence"(arXiv:math/0506310v3)を見つけた。僕の理解力とか好みにたまたまマッチしたということだろうが、これは面白い! スゲー面白い。11ページしかないから読み切れる。僕にとっては示唆と刺激に富む。解説としてもポイントが押さえてあってとても分かりやすい。実に良い。

もういろいろ面白いんだが、とりあえずこのエントリーでは、例として出てくるコンパクト論理と、それが「からみ系(タングルなど)」とどう関係するかを述べる。

命題変数(命題letterとも言う)p, q, rなどから組み立てられた命題論理式を考える。使えるのは含意記号⊃と掛け算(multiplication)×。×は、∧と思ってよいが、論理結合子が1つしかないからコンパクト論理。推論は、常に1入力-1出力で、次の推論を許す。以下では、p, q, rなどは、命題変数つうよりは論理式(項といってもいいが)を表すメタ変数。


(1)
p×q
------[k1]
p

(2)
p×q
------[k2]
q

(3)
p×(p⊃q)
----------[ε, モダスポネンス]
q

(4)
p
------[w, 増]
p×p

(5)
q
----------[η]
p⊃(p×q)

(6)
p×q
-------[γ, 換]
q×p

ドウセン/ペトリック論文では、⊃に矢印を使っている。γ(対称、またはブレイディング)は僕が付け足した。その他の記号はママ採用。少し注意:

  1. 射影がπじゃなくてkなのは、Kコンビネータからだろう。
  2. 対角がwなのはdoubleだからだろう。weakeningのwかもしれない。
  3. ηとεは、単位/余単位の記号。余単位εがモダスポネンスなのは面白い。

以上の推論図から次のような、タングルもどきを作る。


(1)
p×q
| |
|
p

(2)
p×q
| |
|
q

(3)
p×(p⊃q)
∪ |
|
q

(4)
p
/\
p × p

(5)
q
|
∩ |
p⊃(p×q)

(6)
p × q
\/
/\
q × p

命題変数のラベルを忘れてしまうと:


(1) k1: 2→1
* *
| |
|
*

(2) k2:2→1
* *
| |
|
*

(3) ε:3→1
* * *
∪ |
|
*

(4) w:1→2
*
/\
* *

(5) η:1→3
*
|
∩ |
* * *

(6) γ:2→2
* *
\/
/\
* *

となる。縦につないで結合、横に並べてモノイド積(テンソル)を入れると、Nを対象類とする対称モノイド圏(またはブレイド付きモノイド圏)となる。この圏は、対称の圏(またはブレイドの圏)を含むが、放電器や∪、∩を単独で取り出すことは出来ない(閉じ込められている)。対称性が不完全で双対もない。

以上で作られた圏では面白くなくて、縮約操作で得られる図形も全部入れた圏を考える(正確な定義はまだハッキリしない)。縮約してできる図形が証明ネットだろう。縮約は証明ネットの変形(書き換え)に対応する。基本的な書き換え規則から生成された書き換えを2-セルとして2圏を作る。この2圏(弱いかも知れない)が興味の対象だ。

ドウセンによると、問題の2圏内の2セルに3-セルを使って同値関係を入れて正規形を選び出すのが困難らしい。どうも焦点は3-構造のように思われる(僕の誤解がなければ)。

この例題は定義が簡単で、手でいくらでもいじれる。そのくせ難しい。テンパリー/リーブ圏とかカウフマン図式の圏とかと比べても面白い。トゥラエフのタングル圏コッチも)とも似ているし。

適当なタングルを生成元とすると、面白い代数の例がいくらでも作れる気がする。q |- p⊃(p∧q) がモダスポネンスの“ある種の双対”となるのはまったく知らなかった。絵図を使わないと気が付きにくいだろう。