豊饒版の米田の補題
もう正月はいいや。普通に戻りたーい。
名目上は明日から始動だし、今日の曜日は日曜でもあるが、アタマが腐りそう(いや、腐っているか?)だから、なんか書いておこう。
"Short Introduction to Enriched categories" の第2章、つまり後半の豊饒圏論の7ページ分をざっと読んだ。この論説の結論的主張は、Vが完備対称モノイド閉圏(complete symmetric monoidal closed category)であるとき、通常の(古典)圏論のほとんどの結果はV-豊饒圏(V-enriched category, V-category)に対しても成立する、というものだ。
その典型例として、米田の補題のV-豊饒版(V-enriched version)がある。Vが完備対称モノイド閉圏で、/V/はVの自然な自己豊饒圏(canonical self-enriched category)とする。この状況で、Cが小さいV-圏(small V-category)、F:Cop→/V/ がV-関手(FはC上では反変)であるならば、F(a) ≒ Nat(F, C(-, a)) がV内で成立する。
これの特殊事例として、V = [0, ∞] とした場合を考える。一般化距離空間/V/の台集合をPと書く。/V/ = (P, d/V/)は自己豊饒圏=標準的な一般化距離空間=坂道(or 滑り台)空間。
X = (|X|, dx), は一般化距離空間、f:X→/V/が反変の縮小(非増大)写像だとする;これは、d/V/(f(a), f(b)) ≦ dX(b, a) を意味する。この状況下で、任意のa∈|X|に対して、f(a) = |f, dX(-, a)| が成立する、というのが米田の補題。ここで、|f, g| は、2つの縮小写像の間の一般化距離で、最小上界∨を用いて、|f, g} = ∨t∈X[dY(f(t), g(t))] と書ける。最小上界の存在は、Vの完備性として仮定されている。証明は、指数=制限差、直積=最小上界の定義に気を付けならば不等式評価を行う。不等式の向きとかは少しややこしい。
一般論 | 特殊事例 |
---|---|
モノイド圏 | 全順序モノイド |
対象 | 元 |
射 | 順序≦のインスタンス対 |
モノイド積 | 足し算 |
モノイド単位 | 0 |
閉性 | 制限差の存在 |
指数 | 制限差 |
対称性 | 可換性 |
直積 | 最小上界 |
終対象 | 0 |
始対象 | ∞ |
圏の完備性 | 順序の完備性 |
V-圏 | 一般化距離空間 |
V-関手 | 縮小写像(コントラクション) |
V-自然変換 | 縮小写像のあいだのある関係 |
Nat(F, G) | 縮小写像の一般化距離 |
坂道空間(すべり台)以外に、辺に非負実数の重みを付けた単純有向グラフから作られた一般化距離空間がある。この例はマスロフ脱量子化に関係するから、具体的に詳しく調べると楽しそうだ。ローヴェルの指摘とマスロフ理論を融合できるかな?