点列の収束/極限
点列の収束/極限などの概念を特別扱いせずに、位相空間と連続写像の一般論に吸収したほうがいいと思う。離散空間Nとコンパクト空間N∞のペアを考えて、連続写像が拡張可能かどうかを考える話になる。
部分空間で定義された連続写像を、親の空間全体に拡張する問題は、一般的でよく出てくる問題。この一般的枠組み内で収束/極限も考える。せっかく、一般論をやるんだったら、過去を見直さないともったいないし。
N∞とその位相
N∞ := N∪{∞} と置く。集合N∞の部分集合族、つまりPow(N∞)の部分集合Cを次のように定義する。
- ∞を含まない有限集合(空集合も)は、Cの要素である。
- ∞を含む任意の集合は、Cの要素である。
このとき、次を示せ。
- A, B∈C ならば、A∪B∈C
- X⊆C ならば、
ここで、は、集合族X全体の共通部分。
Cに属する集合の補集合全体からなる集合族をOとする(O⊆Pow(N∞))。次を示せ。
- Oは、N∞の位相になる。
N∞の位相としては、特に断りがない限り今定義した位相を使う。今定義したOは、これ以降ON∞と書く。
次を考えよ。f*(-)は逆像。
- (X, OX)を位相空間として、f:N∞→X は連続。U∈OXとする。このとき:
- f(∞)∈U のとき、f*(U)⊆N∞ はどんな集合か?
- f(∞)!∈U のとき、f*(U)⊆N∞ はどんな集合か?
次を示せ。
- N⊆N∞ であるが、部分集合Nに相対位相(部分集合位相、部分位相、誘導位相)を入れたとき、Nの位相は離散位相になる。
- N∞はコンパクト空間である。(N∞は、離散空間Nのコンパクト化になっている。)
N∞とその位相に特に名前は付いてない。
連続写像の制限と拡張
(X, OX)を位相空間、A⊆X とする。Aを位相空間と考えるときは、常にXからの相対位相を入れる。以下、写像は断り書きがなければ連続とする。
f:X→Y に対して、f|Aを、fをAに制限した写像 f|A:A→Y とする。
- f|Aが連続であることを示せ。
g:A→Y が、f:X→Y により g = f|A と書けるとき、fはgの拡張と呼ぶ。次は同じ意味である。
- fはgの拡張
- gはfの制限
- gは拡張可能(拡張のひとつがf)
X, A, Y, g を適当に決めて次のような例を作れ。
- g:A→Y は拡張を持たない。
- g:A→Y は複数の拡張を持つ。
- どんな g:A→Y も、拡張を持つなら1つだけである。
- どんな g:A→Y も、常に1つの拡張を持つ。
次を示せ。
- AがXの稠密部分集合のとき、g:A→Y が拡張を持つなら1つだけである。
- g:A→Y がXまで拡張可能なとき、h:Y→Z に対する hg:A→Z は拡張可能である。
一点での連続性と開近傍系
XとYが位相空間で、x∈X、f:X→Y は連続かどうか分からない写像とする。OX(x) = {U∈OX | x∈U} とする。OY(y)も同様。
- fが点xで連続 :⇔ ∀V∈OY(f(x)).∃U∈OX(x).f(U)⊆V
なお、「fが連続 ⇔ fがすべての点で連続」については、各点で連続ならば連続 - 檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編 を参照(使っている記法が違うけど)。
OX(x)の要素を、xの開近傍と呼ぶ。OX(x)はxの開近傍系だが、OX(x)全体を使う必要はないので、次の性質を持つ部分族を開近傍系と呼ぶ。
- N⊆OX(x)
- ∀A⊆N.∃U∈OX(x).U⊆A これは自明に成立する
- ∀U∈OX(x).∃A⊆N.A⊆U
二番目の条件は不要だが、入れておくと対称性がある*1のがわかる。
Nがxの開近傍系だとして、
- fがN-連続 :⇔ ∀V∈OY(f(x)).∃A∈N.f(A)⊆V
次を示せ。
- fが点xで連続 ⇔ fがN-連続
コンパクト位相空間N∞に関して、S⊆ON∞(∞)を次のように定義する。
- A∈S :⇔ ∃n∈N.(A = ({k∈N | k ≧ n}∪{∞}))
この定義のもとで、
- Sは(N∞において)∞の開近傍系となることを示せ。
以上により、
- f:N∞→X が点∞で連続 ⇔ fがS連続
特に、Xがdを距離とする距離空間のときに、
- f:N∞→X がS連続であることを、ε-δ風に記述せよ。
通常、Sを、N∞における∞の標準的開近傍系として使う。
N⊆N∞ における拡張可能性
Nは、位相空間として離散空間であり、コンパクト空間N∞の部分空間だと考える。NはN∞で稠密なので、
- g:N→X がN∞まで拡張可能なら、その拡張はひとつだけである。
gが拡張可能なとき、その拡張を ext(g):N∞→X と書く。次は既に示している。
- g:N→X が拡張可能なら、f:X→Y に対する fg も拡張可能で、ext(fg) = f(ext(g))
以下は、言葉使い/表現法の違いである。
- (an|n∈N)はXの点列である ⇔ a:N→X は(離散位相で)連続写像である。
- (an|n∈N)は収束する ⇔ a:N→X はN∞まで拡張可能である。つまり、ext(a)が(一意的に)存在する。
- limn→∞an = b ⇔ ext(a)(∞) = b
- f(limn→∞an) = limn→∞f(an) ⇔ f(ext(a)(∞)) = ext(fa)(∞) または同じことだが (fext(a))(∞) = ext(fa)(∞)
解析(微積分)では、距離空間と点列だけで議論することが多いが、一般論を使わないとかえって見通しが悪くなったり、煩雑になったりするので、必要に応じて位相空間と連続写像の一般論を使ったほうがよい。
*1:順序集合の部分集合のあいだの共終性/共始性。