コンドルセ現象とコンポジトリ
コンドルセのパラドックスはパラドックスではなくて、事実あるいは現象なので、コンドルセ現象と呼ぶ。コンドルセ現象の肝は:
- 個人が合理的なランク付けをしても、集団としてはランク付けが出来ないことがある。
集団としてのランク付けを阻害している障害〈obstruction〉はなにか、というと、それは0次と1次のコホモロジーである。0次のコホモロジーは比較不能ペアの存在、1次のコホモロジーはコンドルセ・サイクルの存在となる。
コンドルセ・サイクルは実際はコサイクルなので、コンドルセ・コサイクルと呼ぶことにする。ローカルコサイクルが全くない状態で大域的非自明コサイクルが生じる現象がコンドルセ現象で、そのときの大域的非自明コサイクルをコンドルセ・コサイクルと呼ぶ。
コサイクルが非自明とは、バンダリサイクルではないこと。つまり、そのコサイクルのコホモロジークラスはゼロではない。ド・ラーム・コホモロジー空間で言えば、非自明コサイクルが決めるド・ラーム・コホモロジー・ベクトルがゼロではない。
多様体のド・ラーム理論(可微分ド・ラーム理論)で、チェック・コホモロジーを計算するために、{good | nice | simple} cover を選ぶ。ここでは、良い被覆〈good cover〉と呼ぶ。被覆が良いには3つの意味があって:
これらの良さのあいだの関係は:
- 位相的に良い ⇒ (ホモロジカルに良い ⇔ コホモロジカルに良い)
さて、多様体とは限らない“複体”においてコンドルセ現象が起きているとは、
- コホモロジカルに良い被覆を持つ複体Kにおいて、非自明な1-コサイクルが存在する。
これは、チェック・コホモロジー、あるいは層のコホモロジーで定式化できそうだが、そうはいかない。被覆の要素である“個人”の上に1-形式=ランキングデータが乗っていて、空間だけでなくて、ランキングデータも集約/集計〈aggregation〉する必要がある。このような集計が可能な構造がコンポジトリ〈compository〉とグリーフ〈gleaf〉だ。
- Title: Compositories and Gleaves (2013v1 - 2016v3)
- Authors: Cecilia Flori, Tobias Fritz
- Pages: 54
- URL: https://arxiv.org/abs/1308.6548
コンポジトリは単体(的)?グリーフと言える。今回の被覆の集約に関してはコンポジトリが使える。コンポジトリは、被覆機構〈coverage〉を持つ圏の上で定義される層の拡張概念。層のコホモロジーと類似に、コンポジトリのコホモロジーが定義できる。
嗜好・選好〈preference〉の集約法〈{aggregation | gluing} {procedure | method}〉は、個人の選好データから集団の選好を作る手続きで、良い被覆となっているコンポジトリのコホモロジーを計算することになる。
コンドルセ・コサイクルは、したがって、コンポジトリのコホモロジーにおける非自明コサイクル=非ゼロ・コホモロジー・クラスということになる。