モッジのテンソル強度とベックの分配法則
あーー、やっぱり絵算は面白い。 絵はあとで追加、今はリンク切れ状態。
モッジのテンソル強度とベックの分配法則は似てるわけだけど、テンソル強度は系統的に割り当てられた分配法則(スワッパ)なのだ。Cがモノイド圏だとして、対象Aごとにスワッパ σ[A] が与えられていて、スワッパ族σが適当な条件を満たすせばテンソル強度となる。
テンソル強度の公理は4つの等式(同型)を含む(「強モナドってか? -- まだcirc-Kleisli構成 - 檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」参照)が、そのうちの2つがベックの分配法則の公理になっている。残りの2つはもっと基本的で、スワッパがアクションとして働いていることを主張していて、これは以前次の記事で書いた構造だ。
- 公平なマグマ、ベックの法則 - 檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編 これはいいよ、再読しよう。
Cが対称とは限らないモノイド圏として、自己関手と自然変換の圏 D = End(C) を考えると、Dは関手結合をモノイド積、恒等自己関手Iをモノイド単位とするモノイド圏となる。だが、DはC上に構成されているので、Cのモノイド関とモノイド単位をある程度はDまで持ち上げることができる。この持ち上がる様が実に面白い。
前もって注意するが、圏をイタリックにするのがメンドクサイからローマンで書く。よって、C∈|C| となることがあるが、適当に解釈せよ。
Cの対象類のモノイド構造がDに持ち上がる
C | はモノイドになる。A∈ | C | に対して、関手A・を次のように定義する。 |
- A・ := λX.(A×X)
同様に:
- ・A := λX.(X×A)
とりあえずはA・だけを考える。
A |→ A・ という対応で、|C|は|D|に埋め込める(いや、埋め込みとは限らないかも)。このとき、次が成立する。
- (A×B)・ = B・;A・
- 1・ = I
ま、ようするに、モノイドの準同型。この準同型はC全体に拡張できるかもしれないが、今はいいや。
ここで大事なことは、
- Cの対象はDの対象だと思ってよい、Cの積はDの積だと思ってよい
Dの積は関手の結合なので、演算としては全然別物だが、ともかく「思ってよい」。
スワップ構造
FがCの自己関手、つまりDの対象だとする。Cの対象でインデックス付けられた自然変換の族 (σ[A] | σ∈A) を考える。
- σ[A] :: F;A・ ⇒ A・;F
これが、ある種の単位律と結合律を満たすときにスワップ構造と(僕は)呼んでいる。ある種の単位律をバニッシング法則、ある種の結合律をバンドル/アンバンドル法則(バンドリング/アンバンドリング法則)と呼ぶことにする。
あっ、その前に; 1(Iじゃない!)をモノイド単位対象として、1・はI(恒等関手=Dのモノイド単位対象)と同じことなので、次の点線で表されるような(単位律を与える)自然同型=Dの同型が存在する。
ここらへんの事情を等式的に真面目に記述するとめんどうなので、上の絵算で済ませる。
それで、スワップ構造のバニッシング法則は次のよう。
バンドル/アンバンドル法則は次。
左側の帯状の太い紐は、(A×B)・ を示す。んっ、順序の調整が必要か? 適当に調整せよ。バンドル-スワップ-アンバンドルが、スワップ-スワップと等しい。
ともかくも、次の素材がスワップ構造を定義する。
- 自己関手F
- Cの対象でインデックスされた自然変換の族
- バニッシング法則
- バンドル/アンバンドル法則
モッジのテンソル強度の公理の一部(2つの等式)は、モナドFのテンソル強度を与える自然変換族が、スワップ構造であることを主張している。
ベックの法則
Fがモナドならモナド乗法(白丸で表す)とモナド単位(白三角で表す)がある。関手=Dの対象であるA・が、Fに対してベックの法則を満たすとは次のこと。
要するに、モナドの白丸と白三角が、A・のワイヤーに対して「すり抜け可能」ということだ。
モッジのテンソル強度の公理の残りの等式は、ベックの法則=すり抜け変形の存在を主張している。
テンソル強度
結局、Fにテンソル強度σがあるとは、Fに対してスワップ構造が与えられていて、関手A・達がすべて、Fに対してベックの法則を満たすこと。
オリジナルのベックの法則は、2つのモナドに関して記述するが、1つのモナドと1つの関手があれば記述可能。「1つの関手」を、モナド上の加群だとすると、「山勘がまた当たった、好調、それにしても - 檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」の話になると思う。