このブログは、旧・はてなダイアリー「檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」(http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/)のデータを移行・保存したものであり、今後(2019年1月以降)更新の予定はありません。

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余極限の定義とか性質とか、ペギオ版を修正

本編で話題沸騰(? もう終結だけど)の郡司ペギオさん。1999年論文に出ていた左カン拡張や余極限の定義だけど、これは教科書の引き写しだろうから正しいのかと思っていたら、写し間違いがあったみたいだ(苦笑)。これは修正可能だから、“トレーニングとして”書き直しておこう(これだけだよ)。

たぶん写し間違い

まず、写し間違いらしいところ(≒は同型のつもり、=って書いちゃうかもしれないけど、それはカンベンね):

  • Nat(LanFX, M) ≒ Nat(X, MF)

郡司さんの記号をできるだけそのまま使うことにして、F:A→B, X:A→C, M:C→Bは関手。GFのような並置は反図式順の結合(GF = F;G)。前提される状況は下図のとおり。


A -(X)→C
| /
F /M
↓/
B

図と辻褄が合わなくて上の同型は解釈不可能。M:C→Bの向きが逆で M:B→C だろう。あるいは、図はそのままとして次が正しい。

  • Nat(LanXF, M) ≒ Nat(F, MX)

とにかく、どっか写し間違いをしている。

下の図では、LanFXをLと書いていて、“自然変換=2セル”の集合の間に同型(≒で示した)がある:


C A
| | | |
L ⇒M ≒ F ⇒ MX
↓ ↓ ↓ ↓
B B

これは、Nat(L, M:C→B) ≒ Nat(F, MX:A→B) とも書ける。だとすると、L = LanXF のはず。

郡司さんは、圏Cをsingletonな圏に特化して、余極限を論じているんだけど、圏と圏の対象を混同しているので、激しくワケわからん記述となっている。以下、全部書き直す。

自明な圏1からの関手と自然変換

F:A→B は任意の関手。1はただひとつの対象(0と書く)とid0だけからなる自明な圏。X:A→1 は、圏A全体を一点につぶしてしまう関手。A→1はひとつしかない; 圏1は圏の圏の終対象。

さて、M:1→B が関手だとは、結局、Bの対象を1つ特定する操作なので、MはM(0)というBの対象と同一視してもよい。つまり、

  • Func(1, B) ≒ |B| (Bの対象集合)

この同型により、b∈|B| に対応するFunc(1, B)内の関手も単にbと書く; 記号を濫用して b:1→B、b(0) = b。Bの対象b, b'を選ぶと、Nat(b, b':1→B)はホムセットB(b, b')と標準的に同型。要するに、指数法則 B1 = B ということね。

余極限

Fの余極限を論じる。定義としては、Fからの(F下の)余錐の圏CoCone(F)を考えて、この圏の始対象を余極限だとする。単に余極限というと曖昧なので、圏CoCone(F)の始対象は余極限余錐、余錐の頂点を余極限対象と区別して呼ぶ。余極限余錐をColim(F)、余極限対象をcolim(F)と書く(ちょっと紛らわしいが大文字、小文字で区別)。

以下、関手(Aをシェープとする図式と思ってもいい)F:A→Bに対して、γ = Colim(F)、c = colim(F)とする。定義から、γ∈|CoCone(F)|、c∈B である。γはCoCone(F)の始対象なので、任意の(Fからの)余錐αに対して γ→α という余錐の射(CoCone(F)の射)は1本しかない。

余極限の特徴付け

先の図を C = 1 と特化すると:


1 A
| | | |
L ⇒M ≒ F ⇒ MX
↓ ↓ ↓ ↓
B B

LはFの余極限対象(を1からの関手とみなしたもの)、Mは任意の関手、XはAを1点につぶす関手である。余極限対象の関手版であるLはBの対象cで決まり、MもBの対象b = M(0) と同一視する。また、X;M = X;b も、Aからの定数関手なので、対象bと同一視してよい。その結果、次のように書いてよい。


1 A
| | | |
c ⇒b ≒ F ⇒ b
↓ ↓ ↓ ↓
B B

それで示すべきは、

  • Nat(c, b) ≒ Nat(F, b) (c = colim(F))

となる。Nat(c, b) = B(c, b) は既に明らかにしたから、以下で Nat(F, b) = B(c, b) を示す。

まず、b∈|B|に対して、bを頂点とする余錐の集合をCoCone(F→b)とする。CoCone(F→b)⊆|CoCone(F)| である。任意のβ∈CoCone(F→b)に対して、φ:γ→β という余錐の射φが1本存在する(φ = 0βと書くべきかも)、γが始対象だから当たり前ね。φの頂点部分を f:c→b in B とすると、β|→f という対応は、CoCone(F→b)からB(c, b)への写像となる。逆に、f∈B(c, b) が与えられたとき、cを頂点とする余錐γに、fを後結合してbを頂点とする余錐βを作り出せる、この構成は B(c, b)→CoCone(F→b) となる。

上の2つの構成(「始対象からβへの唯一射」の頂点を取る構成と、頂点射から余錐βの構成)は互いに逆なので、

  • CoCone(F→b) ≒ B(c, b) (c = colim(F))

が得られる。(もうちょっと丹念に定義と付き合わせる作業が必要かもしれないが、大丈夫だろう。)

もうひと押し

c, b∈B が何であれ、Nat(c, b:1→B) ≒ B(c, b) はOK。cがFの余極限対象であるとき、CoCone(F→b) ≒ B(c, b) 。となると、Nat(F, b) ≒ CoCone(F→b) が示せれば望みの結果が得られる。

βが F⇒b:A→B という自然変換だとする、つまりβ∈Nat(F, b:A→B)。a∈|A| に対する自然変換βの成分βa:F(a)→b は余錐の母線だと思える。逆に、Fからの余錐の母線は自然変換の成分だと思える。つまり、Nat(F, b)≒CoCone(F→b) となっている。

以上から、

  • Nat(F, b)≒CoCone(F→b)≒B(c, b)≒Nat(c, b) (c = colim(F))

が成立する。

キモは、CoCone(F→b)≒B(c, b) の同型の部分かな。

それで

いちおうトレーニングになったか? でもなんかむなしいから、ペギオ版の修正、書き直しはもうやらない!

[追記]本編に書いたこと:

原文を引用してもどうせラチがあかないので、それはしませんでしたが、郡司さんのメチャクチャ解説のトピックである「余極限」を、もとの記号は保ったまま書き直す試みはしてみました。でも、こんなことやっても別に意味ありません。「まともな教科書か論文を読め」で済む話ですわ。あー、バカみたい。

バカみたいです。[/追記]