このブログは、旧・はてなダイアリー「檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」(http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/)のデータを移行・保存したものであり、今後(2019年1月以降)更新の予定はありません。

今後の更新は、新しいブログ http://m-hiyama-memo.hatenablog.com/ で行います。

問題集6の目的と解答と追加説明 その2 (A14R6-2)

※この記事は「記事14 解答6-2」

問題集6とは、次の記事(の問題部分)のことです:

「その1」は、次の記事です。

内容:

  1. 書き方の注意
  2. 限量子を含む閉論理
  3. コンテキスト付き論理式
  4. コンテキスト付き論理式(続き)
  5. コンテキストの水増し
  6. 様々な論理式を作ってみる
  7. 限量子も使ってみる

書き方の注意

次の書き方の約束は、あまり(ほとんどかも)使っていません。

  • メタ論理(形式されてない通常の論理)の論理記号は丸括弧で囲む。(∧), (⇒) など。
  • 形式化された命題である論理式は引用符で囲む。"∀x∈R.∃y∈R.(y2 = x)" のように。

形式化されている/されてないを特に強調したいときは、気まぐれに使います。

限量子を含む閉論理

前回は、「限量子を含む閉論理」の途中まででした。解答を再掲すると:

  1. 〚∀n∈N.(n ≧ 0)〛 = 1
  2. 〚∃n∈N.(n < 0)〛 = 0
  3. 〚∀n∈N.∃m∈N.(m ≧ n)〛 = 1
  4. 〚∀n∈N.∃m∈N.(m < n)〛 = 0
  5. 〚∀x∈R.∃y∈R.(y2 = x)〛 = 0
  6. 〚∀x∈R.∃y∈R.(x ≧ 0 ⇒ y2 = x)〛 = 1
  7. 〚∃y∈R.∀x∈R.(x ≧ 0 ⇒ y2 = x)〛 = 0
  8. 〚∀x∈R.∀y∈R.∃n∈N.((x ≧ 0 ∧ y > 0) ⇒ yn ≧ x)〛 = 1

3番以降は、限量子が2つ付いています。「命題と、そのコンテキスト/真理集合 (A8P6)」の追記に書いた「感情表現をタップリ混じえた日本語」に沿って考えれば、おそらく解答は得られるでしょう。

しかし、2個以上の限量子が付いた形式化された論理式の数学的解釈は、日本語としての解釈とは別に定義する必要があります。なぜなら、形式化された論理式は人工的に定めた構文的なデータに過ぎず、我々人間が意味を定義してあげないと、天然の意味などないからです。

「意味を定義してあげる」作業は、国語辞典の項目を書き下す作業ではありません。「問題集6の目的と解答と追加説明 (A14R6-1)」において、1個の限量子に対してやったのと同程度の精度の議論が必要です。が、これはちょっとめんどうなので、オプショナルな(必須ではない)別記事にします(短い解説なら、この記事の最後にあります)。

コンテキスト付き論理式

  1. (x∈R| x < 0 ∨ 1 < x)
  2. (x∈R| 0 < x ∧ x < 1)
  3. (x∈R| 0 < x ∧ 1 < x)
  4. (x∈R| x < 0 ⇒ x2 = 1)
  5. (x∈R| x2 = 1 ⇒ x < 0)
  6. (x∈R| x2 = 1 ⇒ x = 0)
  7. (x∈R| x2 = 1 ⇒ x = 1)
  8. (x∈R| x2 = 1 ⇒ (x = 1 ∨ x = -1))
  9. (x∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ x = 1)
  10. (x∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ (x = 1 ∨ x = -1))
  11. (x, y∈R| x2 + y2 = 1)
  12. (x, y∈R| x2 + y2 = 4 ∧ x + y ≧0)
  13. (x, y∈R| x2 + y2 = 4 ∧ x + y ≧ -1)
  14. (x, y∈R| x2 + y2 = 1 ∨ x + y = 0)
  15. (x, y∈R| x2 + y2 = 1 ⇒ x = 1)
  16. (x, y∈R| x = 1 ⇒ x2 + y2 = 1)
  17. (x, y∈R| (x = 1 ∧ y = 0) ⇒ x2 + y2 = 1)
  18. (x, y∈R| x2 + y2 = 1 ⇒ x + y ≦ 2)
  19. (x, y∈R| x2 + y2 = 1 ⇒ x + y ≦ 1)
  20. (x, y∈R| x2 + y2 ≦ 1 ⇒ x + y ≦ 2)
  21. (x, y∈R| x2 + y2 ≦ 1 ⇒ x + y ≦ 1)
  22. (x, y∈R| (x2 + y2 ≦ 1 ∧ x + y ≦ 0) ⇒ x + y ≦ 1)

1から10のスコット・ブラケットを図示すると次のようです。コンテキスト領域は、R = 直線 で、赤い所がスコット・ブラケットの値(真理集合)です。赤くない所は真理集合の補集合、つまり反例集合です。

実数の区間を、閉区間 [a, b] 、開区間 (a, b) のように書くと:

  1. 〚x∈R| x < 0 ∨ 1 < x〛 = (-∞, 0)∪(1, +∞)
  2. 〚x∈R| 0 < x ∧ x < 1〛 = (0, 1)
  3. 〚x∈R| 0 < x ∧ 1 < x〛 = (1, +∞)
  4. 〚x∈R| x < 0 ⇒ x2 = 1〛 = {-1}∪[0, +∞)
  5. 〚x∈R| x2 = 1 ⇒ x < 0〛 = (-∞, 1)∪(1, +∞)
  6. 〚x∈R| x2 = 1 ⇒ x = 0〛 = (-∞, -1)∪(-1, 1)∪(1, +∞)
  7. 〚x∈R| x2 = 1 ⇒ x = 1〛 = (-∞, -1)∪(-1, +∞)
  8. 〚x∈R| x2 = 1 ⇒ (x = 1 ∨ x = -1)〛 = (-∞, +∞)
  9. 〚x∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ x = 1〛 = (-∞, +∞)
  10. 〚x∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ (x = 1 ∨ x = -1)〛 = (-∞, +∞)

含意'⇒'を含む (x∈X| A⇒B) の形のコンテキスト付き論理式のスコット・ブラケットを求めるときは、いちいち悩まないで定義どおりに計算します。

  • 〚x∈X| A⇒B〛 = 〚x∈X| A〛c∪〚x∈X| B〛

例えば、"(n∈N| nは偶数 ⇒ n2は偶数)" のスコット・ブラケットならば:


〚n∈N| nは偶数 ⇒ n2は偶数〛
= 〚n∈N| nは偶数〛c∪〚n∈N| n2は偶数〛
= {n∈N| nは奇数}∪{n∈N| n2は偶数}

ここで、{n∈N| nは奇数}が真理集合に入ってますが、これを真理集合に入れないと、奇数の集合は真理集合の補集合、つまり反例の集合になってしまいます。奇数が反例なのではなくて、

  • 偶数であって、その二乗は偶数ではない自然数

が反例です。

反例ではない自然数は正例、つまり真理集合=スコット・ブラケットに入ります。コンテキスト領域(今の場合はN)の要素は、必ず正例か反例のどちらかです。「正例でも反例でもない」とか「正例でもあり反例でもある」なんて要素は在りません! 「Yesとも言えるしNoとも言える」なんて答え方は、まったく許されないのです。

※注意: 「nは偶数」は日本語ですが、"∃k∈N.(n = 2k)" とすれば形式化された命題になります。全部を形式化した形にすると長くなるので、一部を非形式的に日本語で書く略記はしばしば使います。定式化や理論構成自体は厳密でも、説明や表現はとても雑でエエカゲンなんです。

コンテキスト付き論理式(続き)

問題11から15の図は次のようになります。13は間違っていたので、後から描きなおしています。コンテキスト領域は、R×R = R2 = 平面 で、赤い所がスコット・ブラケットの値(真理集合)です。赤くない所は真理集合の補集合、つまり反例集合です。


15は汚いですが、円周が白ヌキ(補集合、反例)です。が、点 (1, 0)は赤(正例)です。

続いて、16から22まで。


19は青で塗っちゃいましたが、白ヌキ(補集合、反例)のつもりです。

コンテキストの水増し

  1. (x, y∈R| x < 0 ∨ 1 < x)
  2. (x, y∈R| 0 < x ∧ x < 1)
  3. (x, y∈R| 0 < x ∧ 1 < x)
  4. (x, y∈R| x < 0 ⇒ x2 = 1)
  5. (x, y∈R| x2 = 1 ⇒ x < 0)
  6. (x, y∈R| x2 = 1 ⇒ x = 0)
  7. (x, y∈R| x2 = 1 ⇒ x = 1)
  8. (x, y∈R| x2 = 1 ⇒ (x = 1 ∨ x = -1))
  9. (x, y∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ x = 1)
  10. (x, y∈R| (x2 = 1 ∧ x ≧ 0) ⇒ (x = 1 ∨ x = -1))

もとのスコット・ブラケット(真理集合)は、直線内の区間(の寄せ集め)なので、それを上下方向に無限に伸ばした平面領域を描きます。例えば2番なら、幅1で縦方向に無限に長い帯です。

  1. (x, y∈R| 1 + 2 = 3)
  2. (x, y∈R| 1 + 2 < 3)
  3. (x, y∈R| 12 = 22)
  4. (x, y∈R| 3 ≦ 5 ∧ 3 ≦ 3)
  5. (x, y∈R| 1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22)
  6. (x, y∈R| 1 + 2 < 3 ∨ 12 = 22 ∨ 3 ≦ 3)
  7. (x, y∈R| (3 ≦ 5 ∧ 3 ≦ 3) ⇒ 1 + 2 < 3)
  8. (x, y∈R| (3 ≦ 5 ∨ 3 ≦ 3) ⇒ ¬(1 + 2 < 3))
  9. (x, y∈R| ¬(1 + 2 < 3) ⇒ (1 + 2 = 2))
  10. (x, y∈R| 1 + 2 = 3 ⇒ (1 + 2 < 3 ⇒ 12 = 22))
  11. (x, y∈R| ∀n∈N.(n ≧ 0))
  12. (x, y∈R| ∃n∈N.(n < 0))
  13. (x, y∈R| ∀n∈N.∃m∈N.(m ≧ n))
  14. (x, y∈R| ∀n∈N.∃m∈N.(m < n))
  15. (x, y∈R| ∀x∈R.∃y∈R.(y2 = x))
  16. (x, y∈R| ∀x∈R.∃y∈R.(x ≧ 0 ⇒ y2 = x))
  17. (x, y∈R| ∃y∈R.∀x∈R.(x ≧ 0 ⇒ y2 = x))
  18. (x, y∈R| ∀x∈R.∀y∈R.∃n∈N.((x ≧ 0 ∧ y > 0) ⇒ yn ≧ x))

もとの(水増しする前の)コンテキスト領域は1で、スコット・ブラケット(真理集合)が01だったので:

  1. もとのスコット・ブラケットが1ならば、平面全体
  2. もとのスコット・ブラケットが0ならば、空集合

様々な論理式を作ってみる

まず、命題パラメータ A, B, C に代入する具体的な論理式を選びます。

  • A として20番を選ぶ: (x, y∈R| 0 < x ∧ x < 1)
  • B として31番を選ぶ: (x, y∈R| x2 + y2 = 4 ∧ x + y ≧ -1)
  • C として29番を選ぶ: (x, y∈R| x2 + y2 = 1)

この設定で次の論理式のスコット・ブラケット(真理集合)を描きます。赤い所がスコット・ブラケットの値(真理集合)です。赤くない所は真理集合の補集合、つまり反例集合です。

  1. ¬A
  2. A∧B
  3. A∨B
  4. A⇒B
  5. A⇒¬B
  6. (A∧B)⇒C
  7. (A∨B)⇒C
  8. A⇒B∧C
  9. A⇒B∨C
  10. (A∧B)∨C

こんな(↓)感じ。描く順番がアッチャコッチャ。


限量子も使ってみる

Aに何を選んでもあまり面白い絵にならないので絵は割愛。

  1. ∀x.A
  2. ∀y.A
  3. ∀x.∀y.A
  4. ∃x.A
  5. ∃y.A
  6. ∃x.∃y.A
  7. ∀x.∃y.A
  8. ∀y.∃x.A

一般に、限量子が付いた場合のスコット・ブラケットの描き方を説明しておきます。

〚x∈R, y∈R| A〛は、コンテキスト領域R2内の部分集合(平面内の図形)なので、それをVと置きます。存在命題のスコット・ブラケット〚x∈R| ∃y∈R.A〛は、集合Vを射影した像です。上の図で射映像はWとなっています。

  • W = (Vの射影像) = 〚x∈R| ∃y∈R.A〛

全称命題 ∀y∈R.A に関しては、

  • ∀y∈R.A と ¬∃y∈R.¬A は論理的に同値

という結果を使って、

  • (Vcの射映像)c = 〚x∈R| ∀y∈R.A〛

これらは、∃y∈R.A と ∀y∈R.A のスコット・ブラケットを計算するときの公式(定義)と思ってもかまいません。つまり、(x∈R, y∈R| A) のスコット・ブラケットが分かれば、それから、∃y∈R.A と ∀y∈R.A のスコット・ブラケットは素朴集合論内で定義・計算が出来るわけです。