資産負債モデル
論理式(formula)は極性(ポラリティ polarity, 符号 sign)を持つとする、正負号(positive sign)と負符号(negative sign)。正負号は省略してもよい。(書き方は後で)
正(極性が正)の論理式の集まりを論理資産(logical asset(s))、負の論理式の集まりを論理負債(logical obligation(s))と呼ぶ。負債は、liabilities, debt デット, debit デビなどがあるが、ここでは責務という意味合いでobligationを使う。
論理資産(正の論理式)を作り出す行為・手続きを証明(proof)と呼び、論理責務(負の論理式)を返済する行為を解決(resolution レゾリューション)と呼ぶ。resolutionの訳語のひとつ「導出」は証明と似ているので使わない。
- 目的命題の証明 -- 目的額の貯金
- 責務命題の解決 -- 現状債務の返済
既に終わっている証明や解決を既決(settled, proved, resolved)、まだ手付かずの証明や解決を未決(pending, unproved, unresolved)と呼ぶ。
書き方
- 正の論理式は、+ A と書く。
- 負の論理式は、- A と書く。
- 正の論理式は、A でもよい。
正の論理式達(論理資産)から正の論理式達を得る行為を証明と呼び、次のように書く。
- +[A1, ..., An |- B1, ..., Bn]
先頭のプラスとブラケットは省略してもよい。
- [A1, ..., An |- B1, ..., Bn]
- A1, ..., An |- B1, ..., Bn
証明を、正のリーズニング、順方向リーズニング、フォワード・リーズニングとも呼ぶ。また、上記のような形式を、正のシーケント、順方向シーケント、フォワード・シーケントと呼ぶ。
負の論理式達(論理負債、論理責務)を減らす行為を解決と呼び、次のように書く。
- -[B1, ..., Bn -| A1, ..., An]
区切り記号が -| なので、先頭のプラスとブラケットは省略してもよい。
- [B1, ..., Bn -| A1, ..., An]
- B1, ..., Bn -| A1, ..., An
ただし、証明を逆向きに書いただけと区別するために、負符号を省略しないほうが望ましい。
推論、証明、リーズニング
推論にはいくつかの対称性がある。
- 導入規則と除去規則の対称性: これは対称というよりは単に対で出現するというだけ。個々の規則はそれぞれの個性を持つが、全体で何個あるかを列挙するときは便利な“対称性”。論理記号(結合子と定数)がN個あれば、2N個の推論規則が生じる。
- 矛盾双対性: T→A と ¬A→⊥ にある双対性。f:T→A という射があれば、双対として ¬A→¬T、つまり ¬A→⊥ という射がある。この矛盾双対性(contradiction duality/adjointness)は背理法の原理になっている。否定が自己反変関手になっている。
- 証明・解決-双対性: 証明があるなら、その逆向きの解決がある、という双対性。圏Cの射と、反対圏Copの射が1:1対応することが根拠となる。反対圏双対性である。
命題を対象、証明を射とする圏Cがあると、その反対圏の対象と射を表すために次の記法を使う。
- +A∈|C+| ←→ -A∈|C-|
- +f:+A→+B in C+ ⇔ f:A→B in C
- -f:-B→-A in C- ⇔ f:A→B in C
明らかに、C C+, Cop C-。この状況で:
- +f:+A→+B を、命題Aから命題Bへの証明と呼ぶ。
- 命題Aを証明の前提(premise)、命題Bを証明の結果(result(s))と呼ぶ。
- -f:-B→-A を、命題Bから命題Aへの解決と呼ぶ。
- 命題Bを解決の課題(theme)、命題Aを解決の要求(requirement(s))と呼ぶ。
証明の書き方:
target B // Bは証明の目標 proof : : results C // Cが証明の結果 end proof now we got C toward B (we owed C⇒B)
解決の書き方
obligation B // Bは責務、目標と同じ resolve B : : requires A // Aは要求(必要事項) (AがTrueなら done) end resolve now we got B providing A (we got A⇒B) (we owed A)
推論図
論理結合子∨について例示する。
+ A --------- + A∨(B) + A∨B +[A |- C, B |- C] --------------------------- + C
これは導入規則と除去規則。正負号を取れば、通常の自然演繹の推論規則そのもの。
シーケントを使って書くと:
+[Γ |- A] ------------------ +[Γ |- A∨(B)] +[Γ |- A∨B] +[Δ, A |- C] +[Π, B |- C] --------------------------------------------- +[Γ, Δ, Π |- C]
直観論理シーケントに関する推論規則になる。
正負号を負符号に変えて、証明図やシーケントを逆向きにすると:
- A∨B ---------- - A - C ------------------------------ - (A)∨(B) -[C -| A, C -| B]
これは、負の論理式(責務)に対して解決(リゾリューション、分解、返済)を行う。A∨Bが解決すべき責務のとき、Aに責務を減らすことができる。下側の推論図(逆推論図、原子解決図)は、責務Cを別な論理式責務と解決の責務に変換している。-[C -| A, C -| B]は、未決な解決が2つ残っている(解決責務の残余がある)ことを示す。
逆証明図を逆シーケント(余シーケント)に直すと:
-[A∨B -| Γ] ----------------- -[A -| Γ] -[C -| Γ, Δ, Π] ----------------------------------------------- -[(A)∨(B) -| Γ] -[C -| A, Δ] -[C -| B, Π]
上側の解決責務があるとき、下側の解決責務に還元・帰着できることを示す。
用語法の案
正と順の世界 | 負と逆の世界 |
---|---|
正命題=論理資産 | 負命題=論理責務 |
順証明 | 逆証明=解決 |
推論規則 | 還元規則 |
Aから推論してAを獲得する | Aを還元してBに帰着する |
証明の結果(終点) | 解決の課題(始点) |
証明の前提(始点) | 解決の要求(終点) |
証明の目標(終点の先) | ?(始点より前) |
シーケント | 逆シーケント=余シーケント |
証明射=オペラッド射 | 逆証明射=余オペラッド射 |
オペラッド | 余オペラッド |
通常は、証明の目標=証明の結果(結論)となる。