このブログは、旧・はてなダイアリー「檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」(http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/)のデータを移行・保存したものであり、今後(2019年1月以降)更新の予定はありません。

今後の更新は、新しいブログ http://m-hiyama-memo.hatenablog.com/ で行います。

さまざまな移動(moves)たち

組み合わせ幾何学的な簡約・変形を移動(move)と呼ぶ習慣がある。で、いろいろな移動をまとめてみる。

中心になるのは、ライデマイスター(Reidemeister)移動I, II, IIIである。

カウフマン(Kauffman)はジグザグ等式を移動0として追加している。アルチン(Artin)のブレイド関係式(ヤン/バクスター関係式)と正負ブレイドの逆関係(β+・β- = 1)は、ライデマイスター移動に含まれる。また、トゥラエフ(Turaev)はライデマイスター移動を拡張したトゥラエフ移動を定義している。イエッター(P.N. Yetter)もトゥラエフと同様な移動を定義している。

結局、アルチン⊆ライデマイスター⊆トゥラエフ/イエッターという増加列ができる。他に、やや傾向が違うがマルコフ(Markov)移動がある。

以下の表にこれらの移動をまとめる。アルチンとマルコフは“一般的呼称”欄に含める。イエッターは“トゥラエフ”欄に含める。他にバエズ/ラングフォード(J.C. Baez, L. Langford)の呼称も“バエズ”欄として記す。

特異点 一般的呼称 ライデマイスター トゥラエフ バエズ
変曲点 ジグザグ等式 移動0 スイッチバック移動 T-移動
尖点 ヤンキング/マルコフII 移動I - -
接触 逆関係/マルコフI 移動II - -
三重点 ブレイド関係式 移動III - -
極点+二重点 - - Ψ移動 H-移動

特異点に関しては、上のライデマイスター移動の図を参照。トゥラエフ/イエッターのΨ(プサイ)移動は以下の図。

Ψ移動とクロスオーバー公式の関係は:



マルコフ移動は、xとx'が互いに逆なブレイドだとして:

  1. b ⇔ x;b;x' (スライディングでキャンセル)
  2. b ⇔ (b+1);[(n-1)+σ] (ヤンキングでキャンセル)

トゥラエフ移動では、モノイド圏の公理がそのまま図形的変形のかたちで入ってくる。ただし、交替律は次の形:

  • f+g = (f+1);(1+g) = (1+g);(f+1)

この形は便利なので憶えておくとよい("Introducing categories to the practicing physicist" by Bob Coecke, http://web.comlab.ox.ac.uk/oucl/work/bob.coecke/Cats.pdf に詳しい)。図形的には、横並びの箱の高さを上下にシフトさせる(トゥラエフの垂直スライド)変形になっている。

イブ・ラフォン(Yves Lafont)はこのテの上下シフトを構文的アイソトピー(syntactical isotopy)と呼んでいる("Equational Reasoning with 2-dimensional Diagrams (1995)" http://citeseer.ist.psu.edu/56012.html)。バエズ/ラングフォードの呼び名はN-移動、コバノフ(Mikhail Khovanov)は"The height shifting morphism"と呼んでいる。