さまざまな移動(moves)たち
組み合わせ幾何学的な簡約・変形を移動(move)と呼ぶ習慣がある。で、いろいろな移動をまとめてみる。
中心になるのは、ライデマイスター(Reidemeister)移動I, II, IIIである。
カウフマン(Kauffman)はジグザグ等式を移動0として追加している。アルチン(Artin)のブレイド関係式(ヤン/バクスター関係式)と正負ブレイドの逆関係(β+・β- = 1)は、ライデマイスター移動に含まれる。また、トゥラエフ(Turaev)はライデマイスター移動を拡張したトゥラエフ移動を定義している。イエッター(P.N. Yetter)もトゥラエフと同様な移動を定義している。
結局、アルチン⊆ライデマイスター⊆トゥラエフ/イエッターという増加列ができる。他に、やや傾向が違うがマルコフ(Markov)移動がある。
以下の表にこれらの移動をまとめる。アルチンとマルコフは“一般的呼称”欄に含める。イエッターは“トゥラエフ”欄に含める。他にバエズ/ラングフォード(J.C. Baez, L. Langford)の呼称も“バエズ”欄として記す。
特異点 | 一般的呼称 | ライデマイスター | トゥラエフ | バエズ |
---|---|---|---|---|
変曲点 | ジグザグ等式 | 移動0 | スイッチバック移動 | T-移動 |
尖点 | ヤンキング/マルコフII | 移動I | - | - |
接触点 | 逆関係/マルコフI | 移動II | - | - |
三重点 | ブレイド関係式 | 移動III | - | - |
極点+二重点 | - | - | Ψ移動 | H-移動 |
特異点に関しては、上のライデマイスター移動の図を参照。トゥラエフ/イエッターのΨ(プサイ)移動は以下の図。
Ψ移動とクロスオーバー公式の関係は:
マルコフ移動は、xとx'が互いに逆なブレイドだとして:
- b ⇔ x;b;x' (スライディングでキャンセル)
- b ⇔ (b+1);[(n-1)+σ] (ヤンキングでキャンセル)
トゥラエフ移動では、モノイド圏の公理がそのまま図形的変形のかたちで入ってくる。ただし、交替律は次の形:
- f+g = (f+1);(1+g) = (1+g);(f+1)
この形は便利なので憶えておくとよい("Introducing categories to the practicing physicist" by Bob Coecke, http://web.comlab.ox.ac.uk/oucl/work/bob.coecke/Cats.pdf に詳しい)。図形的には、横並びの箱の高さを上下にシフトさせる(トゥラエフの垂直スライド)変形になっている。
イブ・ラフォン(Yves Lafont)はこのテの上下シフトを構文的アイソトピー(syntactical isotopy)と呼んでいる("Equational Reasoning with 2-dimensional Diagrams (1995)" http://citeseer.ist.psu.edu/56012.html)。バエズ/ラングフォードの呼び名はN-移動、コバノフ(Mikhail Khovanov)は"The height shifting morphism"と呼んでいる。