このブログは、旧・はてなダイアリー「檜山正幸のキマイラ飼育記 メモ編」(http://d.hatena.ne.jp/m-hiyama-memo/)のデータを移行・保存したものであり、今後(2019年1月以降)更新の予定はありません。

今後の更新は、新しいブログ http://m-hiyama-memo.hatenablog.com/ で行います。

ウエス計算2006 #3

上江州さんは、略記、記号の乱用(オーバーロード)を多用するので、僕も真似してしまうのだが、X, Yが変数列のとき:

  • x∈X -- 変数xが列Xに出現する。
  • X⊆Y -- Xに出現する変数はYにも出現する。ただし、順序はどうでもいい。
  • X≒Y -- Xに置換をほどこすとYになる。

x∈Xのとき、x/X は射影:#(X)→#(x) を表す。実は記号#もオーバーロードしていて、#( (x))と#(x)が一致することは保証されていない(同型だが)。よって、x/(x) はidentityとは限らない。

x/Xの拡張として、X⊆Yに対してX/Yを定義する。X/Y:#(Y)→#(X)は、次の図を可換にする射として定義する。


#(Y)
| \
X/Y | \x/Y
| \
v >
#(X)-(x/X)--> #(x)

ここで、xはXに出現する変数を走るが、xは有限個なので、可換図式も有限個である。X/Yを具体的に表示することもできるが、退屈だからやめておく。

2つのv→射f, gがあるとき、fとgがcompatibleであることを、次の図が可換になることだと定義する。


#(X∪Y) -(Y/(X∪Y))->#(Y)
| |
X/(X∪Y) g
| |
v v
#(X)------(f)------->A

要するに、compatibleなv→射は同じ余域A(A∈|C|)を持ち、域#(X∪Y)に対する共通な拡張を持つことである。この共通の拡張:#(X∪Y)→Aを[f, g]と記す。

複数のv→射に対して、v→ペアリングやv→タプリングが定義できる。v→タプリング(n=2のときがv→ペアリング)は、通常のタプリング/直積構成とは違う。v→射にだけ定義できるウエス計算独自の概念である。

f:#(X)→A, g:#(Y)→Bが2つのv→射であるとき、v→ペアリング(f, g)は次の図を可換にする射である。p, qはそれぞれ、第一射影、第二射影。


#(X∪Y)-(X/(X∪Y))->#(X)
| |
(f, g) f
| |
v v
A×B------(p)------>A

#(X∪Y)-(Y/(X∪Y))->#(Y)
| |
(f, g) g
| |
v v
A×B------(q)------>B

v→ペアリングは、通常のf×g、=Δ;(f×g)(Δはダイアゴナル)などの便利な拡張になっている。v→ペアリングの存在、一意性、表示などは練習問題、または次回。

上江州さんは、イイカゲンな記法を合理化しているのだが、結局、イイカゲンなままの記法を使い続けている。別にそれでいいと思うが、一回は合理化の部分をきちんと説明したほうがいいだろう。

ネルソンのテンソル解析の教科書があったのだけど、これは概念的にはやたらにモダンなのだが、古典的な記法を合理化して使っていた。「添字をベクトルと思い直す」とか、相当に強引なコジツケを使っているが「古典計算法は正しい」というポリシーは気持ちよかった。ウエス計算は、ネルソン流のテンソル計算に通じるものがあるな。